慶應義塾大学 名誉教授 竹中平蔵
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ロバート・ウォルターズ・ジャパン 代表取締役社長 デイビッド・スワン

「低賃金分野から、高賃金分野へと労働力を移すことも必要でしょう」 -竹中平蔵

労働市場の再建のために、すべきことはたくさんあります。今日もまだ終身雇用、年功序列という日本特有の制度に忠実な会社が存在しますが、産業構造とマクロ経済の急速な変化を受けるなか、より柔軟な労働市場が求められています。

たとえば日本国内の開業(起業)率を見ると、アメリカに比べて半分程度と大変少ない。閉業率もアメリカの半分程度の水準です。経済の代謝率が低いことを示すデータとしてみることができますが、日本の経済成長率が低いのはこの代謝率の低さに関係しています。

内閣府は、2016年度の経済成長率は1.3%、2017年度には1.5%になるだろうとの見通しを公表しています。日本経済も緩やかに安定的に回復していますが、成長率そのものは依然として低い。この代謝率を上げていくことが必要ですから、労働市場の再建、特に労働者のスキル向上がとても重要です。生産性の低い分野(低賃金分野)から、生産性の高い分野(高賃金分野)へと労働力を移動させることも必要です。

「女性就業率が男性と同等になると、GDPが15%上がります」 -竹中平蔵

――ダイバーシティを受け入れるための施策を投じる企業が増えていますが

「ダイバーシティ」は、労働市場や産業組織を考える上で、とても重要なキーワードです。

先ず、女性の就業率はまだ低く、能力の高い女性に就業機会を与えることが求められます。女性の就業率が、男性と同等まで引き上げられると、GDPは15%伸びます。とても単純な試算です。

次に、マルチステークホルダー型の意思決定、合意形成について。多様な利害関係者が参加することで、効果的な決断ができます。多くの日本企業の経営者らが共感を示していますが、日本の社会には兼ねてから先進的な思考の推進に抵抗を示す人たちがいて、その抵抗感が税金制度や年金制度にも映し出されています。日本政府にとってはそうした制度を変えていくことが重要な課題です。

最後に、移民の受け入れについて。最も重要なダイバーシティ課題です。多くの人が「移民」という単語にアレルギーに似た抵抗感を示します。ヨーロッパでは、セキュリティー(安全)などの面で深刻な問題に直面しています。

安倍首相は、そうした問題点と労働人口不足の双方を深く理解していますので、(「移民」ではなく)「ゲストワーカー」誘致の方針を示しています。経済特区という考えもあります。東京はそのひとつですが、東京、神奈川、大阪の3都府県では、家政婦、ヘルスケア、ヘルパーなど介護サービス分野に限って外国人労働者を積極的に受け入れることを検討しています。ステップバイステップではありますが、ダイバーシティ課題は積極的に協議され、解決に向かって進歩しています。

およそ10年後には日本の人口が毎年100万人ペースで減少します。私は和歌山県に生まれましたが、和歌山県民がおよそ100万人です。毎年、都道府県が1つずつ無くなると考えるとわかりやすいかもしれません。そういった状況ですから、移民受け入れについての議論を避けて通ることはできないのです。

「第4次産業革命に向かって、日本の環境整備が進みます」 -竹中平蔵

――第4次産業革命に向けて、日本も進化するでしょうか

第4次産業革命を日本の産業にどう取り込むのが効果的なのか。安倍首相のもと、政策の検討に携わるメンバーとして、私には、そうした議論を交わしていくミッションがあります。

先ずはビッグデータ。ビッグデータはどこにあるのか。アメリカではグーグル、アマゾンなどにありますね。政府は市場への大きな影響力を持ちませんが、米国では大手IT企業が、ビッグデータを持っています。ヨーロッパのエストニアでは政府主導でビッグデータの集積と活用が進んでいます。なぜエストニアにそれができたのか。人口130万人ほどの小さな国だからでしょう。

日本には、アメリカのグーグル、アマゾンに相当する規模のIT企業はありませんし、エストニアに比べて人口が圧倒的に多い。一昨年、ビッグデータの利活用を視野に入れた基本法案が成立しました。ビッグデータの設備に司令塔を設けるというものです。施行に向けて政策当局、各産業のビジネスリーダー、ITスペシャリストらによってビッグデータに関する議論が牽引されていくものと思います。

またこれとは別に、レギュラトリーサンドボックスの存在があります。英国のFCA(金融行為規制機構)がFinTech産業を発展させるべく取り入れたのが始まりで、既存の金融規制にとらわれず実験を行うことができるというもの。英国に続いてシンガポールでも同様のサンドボックスが設られています。日本にはこうしたサンドボックスがないため、国内では実験をし得ないので、三菱東京UFJ銀行と、日立製作所ではFinTechサービスの実証実験をシンガポールで行っています。

日本でも恐らく今年中には、安倍首相がサンドボックスの設置を決めることでしょう。無人自動運転車が典型的な例です。センサー、カメラなど自動運転技術に必要な部品といった点では日本企業も先進的なテクノロジーを持ち合わせていますが、日本の公道では走行テストが禁止されています。人間が運転しなくてはいけないと法律で定められているからです。アメリカではミシガン州など一部の州で無人自動運転車の公道走行テストが認可されています。

ヤマト運輸では、ドライバー不足から無人自動運転車の導入を推し進めています。DeNAも都市部でのタクシーに代わる事業として同様に推進しています。無人運転の安全性を問う意見が多いですが、高齢者による運転こそ危険ですから、高齢化社会の日本では、大きな商機が見込まれる分野なのです。政府も特例制度やレギュラトリーサンドボックス、ビッグデータの司令塔など様々な施策を投じていきます。

日本の産業に第4次産業革命を取り込むためには、労働市場も変わらなくてはなりません。終身雇用や年功序列に囚われない柔軟な雇用環境が求められますし、何より人材の育成が不可欠です。

急速ではありませんが、日本でも環境整備が確実に進められていますし、政策会議の場でもその動きが見られています。

(2017年1月 ロバート・ウォルターズ・ジャパン主催 給与調査2017発表会より。文責:ロバート・ウォルターズ・ジャパン)

 

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