経済学者 竹中平蔵氏

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ロバート・ウォルターズ・ジャパン 代表取締役社長 ジェレミー・サンプソン

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「消費増税」、「オリンピック」、「労働力人口減少」――。国際社会で競争力を保ちたい日本は、どこまで成長できるのか。中長期的な課題とは。テクノロジーの進化とグローバリゼーションが加速するなか、日本のビジネスシーンは今どんな人材を欲しているのか。最も求められているスキルとは。

ロバート・ウォルターズ・ジャパンは、日本の最新雇用動向と職種・業種別の給与水準をまとめた「給与調査2019」を発行しました。これを記念し東京都内で開催した発表会に経済学者の竹中平蔵さん(慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授)をお迎えし、世界・国内経済と労働市場の見通しについてディスカッションを行いました。

>>2019年版 給与調査はこちら

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「英語が扱える、国際感覚の優れたグローバル人材の求人が増え続けています」 ―ジェレミー・サンプソン

東京オリンピックを目前に訪日観光客が増えています。小売・FMCG・外食分野の人材需要はとても高く、販売員・ホテル従業員など日・英の2ヵ国語が扱える人材は需給の逼迫が顕在化しています。統合型リゾート実施法(カジノ法案)も成立しましたが、エンターテインメント施設、宿泊施設などの開発が進めば、外国人客の応対を担えるバイリンガルのホスピタリティスタッフの大規模な採用活動に繋がります。景況感とグローバリゼーションを追い風に日・英の2ヵ国語が扱えて、国際感覚の優れたグローバル人材を求める求人数は増え続けています。こうした需要に対して供給数(国内のグローバル人材の数)は圧倒的に足りないため、専門性の高いグローバル人材が転職した時の給与水準は2019年も高くなることが予想されます。

 

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「オリンピック開催前に規制緩和とコーポレート・ガバナンス強化を」―竹中平蔵

――オリンピック後の日本経済はどうなりますか?(イベント参加者)

世界人口の7%が視聴するといわれるオリンピック/パラリンピック。ワールドカップなど他の国際大会に比べてもその注目度が遥かに大きいので開催国には緊張感が漂います。改善が求められる部分があれば開催までに改良しよう、となる。デッドラインエフェクト(締切効果)と呼ばれる効果です。53年前の東京オリンピックのときを思い出してみてください。ここには、まだ生まれていなかった方もいらっしゃるでしょうね。私は中学生でしたが、新幹線が東京オリンピック開幕の9日前に開通しました。今でこそ都心には高級ホテルが立ち並んでいますが、東京プリンスホテル、ホテルニューオータニ、旧・東京ヒルトンホテルなどはオリンピック開催にあわせて開業しました。このようにオリンピック開催は社会の活性化にも好影響をもたらします。2020年後の日本がどうなるか。それは私たち次第です。不動産相場も悪くない。賃金上昇の兆しも見られます。

今朝、国会議事堂で政策会議に出席してきました。自動運転についての会議です。ドライバー不足問題を受けて、日本は自動運転需要が高まっています。センサーシステム、カメラシステムなど日本の自動車業界には高い技術があります。しかし規制が商用化を阻んでいます。今の関連法規では車は人が運転しなくてはならない、とされています。AIではだめだということです。規制緩和が必要です。2020年までに規制緩和ができればオリンピック終了後もそのレガシー(遺産)が役立つでしょう。2012年ロンドンオリンピックの開催を前にイギリスでもレガシー(遺産)についての議論が積極的に交わされました。高級ホテルも複数開業し、MICE施設もできました。日本でも規制緩和に向けた取り組みが進められていますが、先述のとおり再生への勢いが減退しています。2020年以降も見通しは暗くありません。しかし2020年までに十分な取り組みがなされないと、高齢化・少子化を背景に残念な結果を見ることになるかもしれません。ですから規制緩和を進め、コーポレート・ガバナンスの強化で労働市場を柔軟にすることで国の力を引き出さなくてはならない。2020年までに成し遂げたいですね。

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「4,000万人が訪日。東京オリンピックまでにシェアリングエコノミーの普及を」 ―竹中平蔵

Q小売業を営む会社で人材採用を担っています。業界全体に見られる傾向として英語ができる若い世代が少ないことがあります。若い世代が英語力を養うために、社会には何ができるのでしょうか?

思うように英語を使いこなせないのは、若い世代に限った課題ではありません。私自身もその難しさを感じています。

先ほども触れましたが1964年の東京オリンピックのときに、英会話教室が多数できました。そして今、タクシー運転手や新幹線の車掌係が英語を学んでいます。一歩一歩着実に英語スキル向上に向けた日本の努力がみられています。

しかし、高校、大学の教育にもっと抜本的な改革が求められていると思います。例えば私は今、東洋大学で毎週3コースで講義をしていますが、言語はすべて英語です。授業に出席する学生の4割は外国人です。そして日本人学生は4年間の大学生活のうち1年は海外の大学で正規科目を履修する必要があり、そうしないと単位が取れません。世界標準に近づくために教育も少しずつ進化しています。

それだけではありません。思考力を身に着けるアクティブラーニング(能動的な学び)も積極的に導入されています。国内の大学入試は大抵が記憶力のテストです。記憶力が高い人にとってはさほど難しくないのかもしれません。しかし今後ますます大切になるのは思考力です。アクティブラーニングも導入自体は広がっていますが、まだ課題が残ります。優秀な指導者、教師の不足です。アクティブラーニングを満足にリードできる教員はまだまだ多くありません。教員の技能開発が必要です。

ともかく、国内の教育はグローバル化に向かって進んでいます。ですので、恐らく4~5年後に社会に出る若い世代の英語力は高まっていることでしょう。

Qオリンピックがもたらす労働市場、経済への影響は?そしてオリンピック後の日本経済はどうなるでしょうか?

メディアを通じて世界人口の約7割がオリンピック・パラリンピックをみると言われていますから、楽しみです。開催国の日本には来年4,000万人が訪日すると、政府は見通しを公表しています。1964年の東京オリンピックでは40万人が日本を訪れましたが、今回はその100倍ですから相当な人数です。

そこで期待されるのはライドシェア、ルームシェア(民泊)などの普及でしょう。自動運転の普及も重要です。ライドシェアの開発あるいは誘致による普及が必要。そのためのIoT、AI、5Gなどの先進技術の開発が積極的に進められています。

重要なのはおっしゃる通り、オリンピックが終わったその先、ですね。アテネ、ロンドンなど過去にも開催国はオリンピックに備える過程で空港の設備改善など施設開発、交通網開発などを加速させてきました。そのおかげで後の社会が豊かになるためLegacy of Olympics(オリンピック遺産)といわれるようになりました。先に挙げた自動運転によるライドシェア、ルームシェア、それらを叶える先進技術は東京2020のオリンピック遺産としてその後の生活を豊かにしてくれることでしょう。

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「増税分が民間企業・国民に還元されるため、増税直後の影響は緩和されるでしょう」 ―竹中平蔵

Q消費増税が10%に上がります。軽減税率の措置はあるとはいえ、国内経済にはどう影響するでしょうか?

消費税率を8%から10%へ引き上げると、およそ5.6兆円が民間企業から公的機関に移ります。そのうち1兆円は食品などへの軽減税率として、2.3兆円は教育無償化などの社会保障としてそれぞれ国民に還元されます。そのほかに、キャッシュレス化推進の一環でQRコード決済導入企業に税制優遇を適用するなど、2.3兆円が様々な形で民間企業や国民に還元されます。産業の発展が進むなか、消費を促進し続けたいという狙いです。そのため、増税後一定の期間内は、個人消費によるデフレなどのネガティブな影響は緩和されるでしょう。


(2019年1月 ロバート・ウォルターズ・ジャパン主催 給与調査2019発表会より。文責:ロバート・ウォルターズ・ジャパン)