ロバート・ウォルターズCEO 哲学と情熱を語る

ロバート・ウォルターズCEO 哲学と情熱を語る

1985年にイギリス・ロンドンで創業して以来、31カ国に展開するまで成長したグローバル人材紹介会社のロバート・ウォルターズ。創業者のロバート・ウォルターズCEOは、40年前、転職業界に入り、人材紹介の可能性を信じて事業を拡大してきました。来日したCEOに、全世界のロバート・ウォルターズに共通するDNAともいうべき価値観を聞きました。

人材と企業を見抜く仕事はとてもクリエイティブ

「人材紹介とは、うまく正しくやれば、とてもクリエイティブな仕事なのです」。ロバート・ウォルターズCEOは、眼光鋭くこちらを見ながら、微笑んだ。

「一つ例を挙げましょう。数年前、私はある相談者にアメリカの銀行の仕事を紹介しました。その際に、その相談者は銀行が出した条件にほとんど合致していなかったのですが、私には、彼の性格や仕事のスタイルから、彼がその銀行にふさわしいと初めから分かっていました。結果的に、銀行は彼を採用しました。彼は今その銀行でサンフランシスコのヘッジファンドを率いていますよ」

「私がクリエイティブだと言ったのは、その人材コンサルタントに力があれば、ある人がある会社にふさわしいと見抜くことができるし、ある会社にどの候補者がふさわしいかと見抜くことができる点です。決まりきったやり方の中で仕事をおさめるならば、スペックと人材のマッチングだけなのでしょうが。それだけではないのです」

言葉の端々から、この仕事が好きでたまらないという、使命感のようなものが伝わってくる。「クリエイティブ」ということを説明する時、CEOの言葉に力が入った。

1985年の創業以来、31カ国4200人の従業員を抱えるまで成長したロバート・ウォルターズだが、企業買収などは最小限にとどめ、社員を育てて成長することを重視している。その結果、全世界の社員はDNAとも呼ぶべき共通の価値観を持つようになった。

「この会社の価値観には創業当初から私が大切にしてきた想いが込められています」と語るCEO。ロバート・ウォルターズ社の根幹を支えるCEOの価値観はどんなものだろうか。

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「外の世界に何があるかを自覚すること」が極めて重要

ロバート・ウォルターズ社には、顧客・転職相談者、社員や社会に向けた企業理念がある。

“Powering people and organisations to fulfil their unique potential”
(邦訳:自らの可能性を諦めない人々に力を)

創業者はこの一文にどのような想いを込めたのだろうか。

「私たちの仕事は往々にして、相談者が考えもしなかった職種、業界、国に対して可能性の扉を開くことです。私たちの仕事を推し広げ、我々が十分に力を発揮して仕事ができていれば、私たちは人々の可能性を開くことができると思っています」

転職して自らのポテンシャルを発揮する人生のほうが、そうでない人生よりも良いと言っているのだろうか。

「私は決して、相談者の方々に今の仕事が違うと言うつもりはありません。実際、多くの人は正しい仕事に就いていて、一生その仕事をしています。それに何の問題もありません。ただ、その人達に、外を見る世界への扉という機会を与えるべきだと思うのです。そうすることで、今の仕事が正しい選択肢だと分かることができます」

「仕事は、情熱を持って楽しめるものであれば、人生の重要な要素となります。そのためには、正しい選択肢を見つけなくてはなりません」

「転職相談者と社員たちには、できるだけ多くの国や業界を見るように言っています。外の世界に何があるか自覚することが極めて重要です」

人々の人生はコモディティではない、ゆえに人が携わることを重視する

「候補者をバーコード化することが嫌い」とロバート・ウォルターズCEOは言う。

ロバート・ウォルターズ社は、コンサルタントが転職相談者に寄り添い、相談相手になるといった「人」による紹介を重視している。

「人々の人生は『コモディティ(日用品のような商品)』ではないのです。ですから、そのように扱われなければならない。我々は、テクノロジーを活用していますが、それはフィルタリングするためのものであって、一旦相談に乗れば、その関係は人間的でパーソナルなものとなります」

AIなどテクノロジーによるマッチングが全盛の時代、ロバート・ウォルターズ社は、テクノロジーを活用しつつ、人が紹介するという価値を重視している。

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「ほんの偶然」で入った転職業界

ロバート・ウォルターズCEOは20代の頃、会計士をしていて、人材紹介業に入ったのは「ほんの偶然」だったという。

「前の会社を辞めて転職活動中に、ある人材紹介会社を利用しました。その担当者と話しているうちに、『ところで君もこういう人材紹介業に興味はないかい』と誘われたのです。多くの人もそうだと思いますが、そんなこと考えたこともありませんでした。でも面白そうだと思い、この業界に入りました」

当時の人材紹介業界は、今と異なり「村の小さなお店のようなもの」だったという。全くグローバルではなく、規模も小さかった。そこでロバート・ウォルターズCEOは、当時、「人材紹介の仕事はよりグローバルで行うことでよりチャンスがあるのではないか」と考えるようになったという。

その人材紹介会社のニューヨーク支店の立ち上げに携わった後、ロバート・ウォルターズCEOは、30歳の時に独立を決意する。独立当初から、グローバルに展開することは自信があったという。

「今のようにグローバルにビジネスをやるということは、初めから考えて起業しました。チャンスがあると思っていました。大きなことを成し遂げる自信がありました」

創業したロバート・ウォルターズ社がロンドンにオフィスを開いた当初は、宣伝はほとんどせず、アメリカ人の受付を雇い、電話が来た時にも社名を言わないといった「ミステリアス」な手法で話題を呼び、後にヨーロッパ各国、そして世界各国に展開し、成長していった。これもCEOのクリエイティブな才能が発揮された事例だった。

「チーム」で支援する体制がもたらすもの

ロバート・ウォルターズ社には、もう一つ、創業以来変わらない原則がある。それは、コンサルタントは、個人ではなく、チームで人材紹介を行うということだ。利益目標も部門ごとで、利益配分も部門ごととなる。そこにもCEOの強い意思が反映されている。

チームで働くという体制は、転職相談者や企業にとって、どんなメリットがあるのだろうか。それは、候補者・企業がアクセスできる案件数が桁違いに上がることだとCEOはいう。

「転職相談者にとって一番のメリットは、転職コンサルタント個人ではなく、その人材紹介会社が持っている全ての案件にアクセスできるということなのです。個人のコミッションベースのところであれば、一人のコンサルタントが抱えられるクライアント企業は限られます。例えば6社とか。それがチームであれば何十倍にもなります。クライアント企業にとっても全く一緒です。一人のコンサルタントが面談した候補者だけではなく、チームが面談した全ての候補者の情報にアクセスできるのです」

その結果として、候補者や企業が思いもよらない、でも最適なマッチングを提案することができることとなる。

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誠実に仕事をすることが、日本市場での信頼と評判につながった

ロバート・ウォルターズ社は、2000年に東京にオフィスを開設して以来、20年にわたって成長を続けてきた。何が成長の秘訣だったのだろう。

「私たちが当時日本でうまくやれたかと思っていることは、ヘッドハンティングを重視した点です。当時日本では、中間層のヘッドハンティングは一般的ではありませんでした。広告を打って反応してくれる人を待つよりずっと効果的でした。日本の労働者はそんなに頻繁に転職しなかったのですが、日本の労働市場は変わり始めていました。私たちはその変化に積極的に対応して今に至ります」

もう一つの成功要因は、「誠実さと評判」だ。

「全てではないですが、ほとんどの私たちの仕事は、クチコミの評価から生まれます。特に日本では評判が決定的です。私たちはクライアント企業から依頼を受けた際も、最適な候補者が見つけられそうではない場合は、ノーと言います。『大変ありがたいのですが、私はそのお仕事をお引き受けするのに最適な人間ではありません』と。誠実さと評判が成長をもたらしたと思います」

「日本市場はあと10倍は伸びる」

CEOは、日本の市場のポテンシャルを大きく評価する。東京だけでもあと10倍は伸びると評価する。

「我々のグループにとって、日本のマーケットは非常に重要です。世界のトップ3の市場に入っています。日本での拠点は東京と大阪の2つですが、東京!見てください、この窓からの景色!膨大です。この市場で私たちは成長しています」

「日本市場には大いなる可能性を感じています。東京だけでもあと10倍は売上を伸ばす必要があると思っています。伸びしろは、今提供できている職種を拡大するということと、新たな業界に拡大するということだと思います。自動車、テクノロジー、化学などの業界に加えて、ヘルスケア業界にも拡大の可能性を感じています。ヘルスケア業界ひとつで、既存業界を合わせたのと同等くらいまで伸びると思います。テクノロジーにもAI分野など、専門性を持った人材を必要としている職種・業界はたくさんあります」

哲学に支えられたロバート・ウォルターズ社の人材紹介は、コンサルタントの高い専門性が基盤となっている。弁護士、経理、エンジニアなど専門性を持ったコンサルタントに人材紹介の考え方を社内で教育して育成し、成長を目指す方針だ。

「最高の会社」を作るために、成長を続けていきたい

最後に、ロバート・ウォルターズ社とCEO自身の未来と目標について聞いた。

「会社の目標は、今までもそうであったように、この業界で我々の仕事において、最高の存在となるということです。それは必ずしも最大の存在ということではありません。しかし、実際は私たちは業界最大手の一つです。最高の存在であろうとすれば、おそらく最大の存在になるでしょう」

「個人としては、ずっと昔にこの会社をロンドンで立ち上げて以来、仕事は、人生の大きな一部となっています。だから、すぐにどこかに行くという計画はありません。でもいつの日か私も引退するでしょうし、南フランスでくつろぐ日も来るかもしれません。しかし、今この時点と見える範囲のこの先、私はこの仕事に全力で打ち込もうと思っています。これまでと同じように成長を続けていきたいと思います」

「私は素晴らしい世界中の同僚や友人たちとともに、本当に素晴らしい人生を送ってきたと思います。多くの人々と交流し、世界中を旅して見て回り、関係を築くのは本当に素晴らしいと思います」

ー日本の読者にメッセージを

「私たちの役割は即効性のある採用・転職支援に留まりません。長期的なキャリアと優れた組織の構築を支援するアドバイザーとして信頼をお寄せいただくことが重要だと認識しています。ぜひお気軽にご相談ください」

この言葉を残し、ロバート・ウォルターズCEOは、日本の経済人が集まる会合へと向かっていった。人材紹介の仕事を「クリエイティブ」として、40年たった今も燃やす熱い情熱が、会社のDNAとして、世界中のロバート・ウォルターズ社で息づいている。